1年生の「デザイン概論」で、まとめとして話している内容です。
 みなさん、ミルクレープは知っていますよね。しっとりしたクレープの生地、ほどよい甘さのクリーム、主な材料はこの2つ。とてもシンプルですが、これらを1層1層丁寧に重ねていき、ナイフで切ると地層のような美しい、とても魅力的なケーキになります。見た目だけではありません。フォークで1口サイズをすくって口に入れると、クレープとクリームがちょうどよいバランスで心地よい食感と共に口の中に広がっていきます。
 さて、ちょっとイメージしてみてください。クレープを何枚も重ねた座布団のようなものの上に、クリームのかたまりをドンと乗せただけではどうでしょう?材料費は同じでその方が作るのも簡単です。味も全く変わらないはずですが、この「クリームのせクレープ」、カフェで売るとしたら300円くらいでしょうか。一方、手間ひまをかけて1層1層美しく重ねて仕上げた「ミルクレープ」は500円、お皿をラズベリーソースでデコレーションしてホテルのレストランで出されたら1000円払ってもいいかも。不思議ですね。では、この「価値の差」はなぜ生じるのでしょうか。
 これがデザインと関係あるのでは?と思った人は、これからの成長が楽しみです。「クリームのせクレープ」と「ミルクレープ」の違いは「構造」です。積層する労力をかけて構造を変化させることで、あの美しい見た目と絶妙な食感を作り出しています。このアイデアと労力が、外観の視覚効果を生み出し、食感という機能を加え、「価値の違い」を生み出しているのです。価値の高いもの、売れるものは、たくさん作って多くの人に食べて喜んでもらいたいですよね。これはもう経済活動の一つと言えるでしょう。同じ品質のものをたくさん作り続けることも、傷めずに遠くまで運べるようパッケージングすることも、より楽しく美味しく食べられる空間を作ることも、全て私たちデザイナーの仕事です。
 最後に、このミルクレープを考え出した人、どのようにしてこんなアイデアを思いついたのでしょうか?このような発想をするには何か特別な訓練が必要なのでしょうか?これもまたデザインの研究テーマの1つです。ちなみにミルクレープは日本人が考えた日本発祥のスイーツだそうです。ぜひ一度調べてみてください。