
「無意識をデザインする。」という表現は、著名なデザイナーも言っていますし、認知科学の世界でも 語られるテーマです。目に見えて不便だと分かっていること、労力をかけても効果が低いものはすでに改善されている、或いは普及しない場合が多く、新しい問題を発見しようとしても、単にネットで検索したり普段の生活から導き出したりすることは難しい社会になっています。デザインの概念が広くなってきたことで、みなさんが学ぶ上でも研究する上でも社会に出る上でも、つかみどころがなく先が見えない状況となっていることは何となく感じているのではないでしょうか。
調査する、企画する、機能を提案する、形をデザインする、全体をコーディネートする、デザインの様々なフェーズで無意識を顕在化させるには、独りで考え込むだけでは見えてこない場合がほとんどです。卒業研究やプロジェクトを進める過程において、個人の情報収集から少人数グループでのディスカッション、全体ゼミでの報告と進捗状況の確認、社会人や経験のあるデザイナーからの助言、ステークホルダーとなる関係者との交流など、大切なプロセスを学生時代に多く経験してもらいたいと考えています。
フェーズフリーデザインとは、防災意識を高めなくても社会を「備わった状態」にする提案です。無意識のうちに「備わっている」、「備えない防災」とも言われますが、日常時と非常時を分けて考えないこの概念も、「無意識をデザインする。」に通ずるものがあります。SDGsの目標11 [持続可能な都市] 包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で 持続可能な都市及び人間居住を実現する、目標13 [気候変動] 気候変動及びその影響を軽減するための 緊急対策を講じる、などにも該当する取り組みで、今後も継続していきます。
1998年に私自身が大学院の修士論文でまとめた「円柱形つまみの回転操作における指の使用状況について」では、人が無意識で行なっている行為・動作を実験結果から数式や図で可視化しました。円柱形の物体に人が手でアプローチする際に使用する指の本数や接触位置など、その都度、意識して行なっている人はいませんが、2本使用する円柱の直径と3本使用となる直径、4本に移り変わる直径、5本使用しなければ回せない直径、2本→3本、3本→4本、4本→5本の境界を知りたい、という純粋な興味から始まった研究でした。
人は、緊張しながら色々なことを意識し続けると疲れてしまいます。無意識をデザインする。日常生活で無意識に様々なことを行えるのが人間の素晴らしいところですが、デザインを学んで社会に出るみなさんには、それぞれの目標に向かう過程で、当たり前のことを疑って、意識されないことに注目し、視野を広く深く考えることを身につけてほしいと思っています。